仙台高裁泥ウソ裁判傍聴記

成瀬 
 2005年5月9日、五年の長きにわたる泥ウソ裁判の第二審、仙台高裁結審がこの日だった。仙台の空は晴れ、さわやかな空気が心地よい。この日も100名弱の学生・青年が、原告団の呼びかけのもと、全国各地から集まった。
 この泥ウソ裁判は、第一義的には、原告らが無実の罪でその所属する大学により告発されたという事件に対する名誉回復を求める闘いであるとともに、この社会における民主主義のあり方そのものを問う性質を持つものである。原告らは、時に照れ笑いと共に「大学の自治」「司法の独立」「基本的人権」といった、民主主義的諸価値をかかげて闘っている。この泥ウソ裁判の結果は、原告らが、そして私たちを含む現代の学生が、いかに無権利状態におかれ、かつ暴力的な権力と対峙しているかを明瞭に示すものである。
 この日の公判傍聴に先立つ総決起集会においては、原告らの意見を筆頭に、その場に集った私たちの「展望の無さ」を相互に確認しあうというなかなか悲惨な様相を呈した。そう、展望がない。私たちの運動を表すのに不適切ではない言葉だ。勝利への道がはっきりと描かれているわけではない。むしろ、敗色濃厚である。しかし、それでも泥ウソ裁判闘争は私たちにとって必要な闘いだったし、現にそうである。そして私はこの泥ウソ裁判闘争が、私たちの社会全体にとって重要な意味を持つことを確信している。
 具体例をあげれば、前回公判において、泥ウソ裁判は三名の証人尋問が行われるという画期的な前進をみせたのだが、その中で、大学の財産管理権を名目として、学生の動向調査、すなわち思想、行動、私生活にわたる広範な調査が、大学の学生部により組織的に行われていたこと、かつそれらが山形大学だけではなく、他の大学とも連携しながら行われていたことが、当局者の証言により明らかになった。これまでも、そうした予測は私たち学生の間で行われていたが、しかし改めてそれらを行っていた側から証言をされると、愕然とせざるをえない。官僚化し、事務権力が肥大化した現在の大学機構においては、大学の自治そのものがなんらの価値ではあり得なくなっている。財産管理権などという馬鹿げた名目で、基本的人権の侵害を正当化しようとする大学当局/文部科学省を我々の社会が容認するかどうかが争われている。闘いの争点は、現在、公務員の命令遵守義務を盾に日の丸/君が代の強制が正当化されようとしている学校教育現場における闘いと通底している。この運動は、この社会における権力と人民の関係のありかたの現状を鋭く告発しているのだ。
 我々は勝利の見込みがあるから運動をしているわけではない。ある決められたプログラムとそれを支える綱領があるから行動しているわけではない。一時的な戦略的先の見えなさと掲げる理念の重要さは、さほど関わりはないのではないか。むしろ一時的な戦略的成功を得るために、あせって理念を書き換えることの危険こそ我々は警戒するべきだ。
 この日の公判では、原告による最終陳述がその大半を閉めた。原告代理人による140ページにも渡る最終陳述書の解説、ならびにこの裁判における争点の確認、そして原告自身による裁判官への堂々とした陳述。これに対して、被告である国、山形大学はたった8ページの陳述書を提出することで自らの意思を表示したに過ぎず、またそれを読み上げて解説したり、補足したりすることもなく、この日の公判では合計1分も喋っていない。結局、第二審においても、原告らを警察権力に告発した元学長成沢郁夫の証人喚問は行われなかった。我々はこれを基礎的な事実調べを行うことを拒否するものであるとして抗議したが、私は、すでに提供されている資料において成沢の犯罪性は明らかであると確信している。そしてそれは、この日集まった学生/青年の総意であるに違いない。公判終了後、我々は仙台市内にてデモンストレーションを行った。宮城県警は機動隊を導入し、デモをなんとサンドイッチのごとく、挟み込んで規制してきた。レベルの低い指揮系統と過剰警備の不当性はどの程度、仙台市民の皆さんに伝わっただろうか?デモの後には「話し合うことから始めたい」と称して「討論集会」がもたれ、それは会場を借りていた時間を一杯まで使って行われた。よく知らない同士ということもあるが、討論・議論というところまでいかず、告白めいたものが多かった気がするが、それもまた我々が共有する課題を探り出すための一つの必要なプロセスになるならば重要な時間だろう。再び、いや、何度でも私たちは「始め」なければならないのだから。
 次回、いよいよ第二審の判決公判である。その期日は9月20日火曜日と決まった。すべての守るべき価値が失効したかのような、ニヒルな態度が運動圏においてすら散見される現在において、真摯に理念と課題に取り組むことの楽しさと大変さを、原告らとの交流は実感させてくれる。また会おう!そしてすべてのみなさん、仙台に結集を!

泥ウソ国倍原告団のページ
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