地域づくりの経済学入門―地域内再投資力論 (現代自治選書)

地域づくりの経済学入門―地域内再投資力論 (現代自治選書)

サブシディアリティという言葉を知っているだろうか。地方主権主義と訳されていて「全ての決定は下せる統治機構のうち一番下のレベルで下すことを意味する概念」である。コミュニティに権限や権力をできる限り降ろしていくことを意味している。「ポストグローバル社会の可能性」(緑風出版)という本で、NGOの理論的リーダー達が、オルタナティブ戦略のキー概念として繰り返し使っていた。民主主義や地域再循環経済を実現するにはここから出発しなければならないと。
関連ある本を探して「地域作りの経済学入門」(2006、岡田知弘)を読んだ。日本経済やグローバル経済論をよく読んだりするが、地域経済に焦点を合わせた本をあまり読んだことがなかったので、内容が新鮮で熱中して読んだ。歴史的な地域政策の展開もコンパクトにまとめられている。東京一極集中、地方格差、農村VS都市問題を解きほぐすのにはお薦めの本。こういう人の本こそ新書になって多くの人に読まれるべきだと切に感じた。

 この本の特徴は多国籍企業の資本蓄積を支援するための地域作りを、「地域間の競争による活性化」という名のもとに進められている現状をシャープに描きだしていることだ。特に政府によって約3200あった市町村を約1800自治体に再編していった「平成の大合併」(2004〜2006)批判は説得的だ。サブシディアリティの理念に逆行する、権限を大きな行政区域に剥奪していくものだと。自分の出身県でも市町村が3分の1になってしまい、ほとんどの町が消滅した。その重大性に注目していなかった自分を恥じた。
さらに新自由主義者達はこれとセットで都道府県よりもっと大きな道州制を導入しようとしている。これによって企業を支援するための予算の選択と集中、行政の許認可の簡易化をさらに進めるためだ。地方自治の空洞化を地方分権のためと推進する皮肉と詐欺。
また今や東京はサービス業や製造業ではなく、地方からの本社送金が最大の産業である事実を資料から説得しているのが鋭かった。グローバル経済が本社への取引、送金を使っていかに、多国籍企業の本社や首都に富を移転していったかが、地方の視点から明らかにしているのも圧巻。
同じく重要なのはグローバル経済は地域に4重の衝撃を与えている点。農産物の輸入自由化地場産業の輸入急増(繊維、工芸品等)、地方立地型企業の海外移転、地方へのチェーン店の進出と本社送金である。
岡田はそこで地域内で繰り返し再投資が行われる「地域内再投資」を対抗的理念として構想している。富を吸い取られないために、地域内で経済循環を行うことが地方経済の活性化にとって不可欠だと。
具体的には
・ 公共事業体が地域優先に発注する、ローカルコンテンツ法(私は受注先が働いている人に生活賃金を保障する公契約法も不可欠だと考える)
・ 金融機関に地域で再投資させる「地域内再投資法」
・ 行政の許認可とセットで企業に条件を課すリンケージ政策
・ 大規模小売店舗や量販店の規制
・ 成長の管理政策(シアトル、サンフランシスコ等)
等を上げている

京都市を解体しろ
その中でも一番印象深かったのが、政令指定都市は区に行財政権限を移譲しろということである。端的に言えば京都市を解体しろと言うことだ。確かに指摘されれば納得する。京都市で言えば140万以上という巨大な都市がコミュニティの単位として維持されてきたのが異常だった。このような規模で参加型民主主義を形成するのは容易なことではない。参加型民主主義こそ社会を変える生命線であり常に拡大していかなければならない課題だとすれば、おかしなことだ。地域に権限を移すと、そこで極右や保守が安易に多くの権力を握ってしまって危険だと考えるかもしれない。しかし社会運動は未来の可能性を「直接的に民主主義を行使しやすい空間に、より決定を!」に賭けるしかないと思う。
なぜなら身近なところに権力があるだけ運動も対抗しやすくなるし、逆に企業エリート達の利害はより反映しにくくなり、公正な行政機構が形成する可能性が増えるからである。例えば30万人以上の市ではリコールが成立しことはない。区という規模でなら目に見える範囲でいろんな人たちが繋がっていけるのである。

中央集権都市の解体は当然の要求であるのに、なぜ気づかなかったのだろうか。思うに日本は「地方税が4割、地方支出が6.5割」であり、この差がひも付き補助金として地方が中央政府に従属する理由となっていた。また中央官庁に許認可権も集中していた。つまり中央政府が圧倒的な存在としてあったということだ。このような中央集権権力に対抗するために、運動の側も中央集権的な組織が必要とされてきてしまったし、中央権力的なものにばかり目が行っていた。
それとは違うネットワーク型組織が効果的に活動するのが必要だ。そこで中央権力から権力・権限を身近な場所へ剥ぎ取っていく指向性を持つのが大切になる。中央権力に取って代わるのでなく、地域に移動させていく方向こそ正しいのである。(グローバルな問題に取り組んだり、再配分機能に対応する民主的なグローバル機構の存在は否定しない)最終的に国家権力の存在足りうる根源である、軍隊の問題をどうするかがのこるにしても。
地方行政学の宮本憲一は「日本社会の可能性」で住民参加を否定する、新自由主義のための「競争的地方自治」ではない、「分権型福祉社会」や「サスティブルシティ」、「内発的発展」等の理念を構想していたのが思い出される。まさに地方社会を考えることが創造性の源泉だということを改めてこの本でかんじた。
京都市市長選が来年の2月に行われるが、「京都市解体」の課題はどう扱われるだろうか。