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現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)
- 作者: 岩田正美
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 新書
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その流れに乗って、日本の貧困研究の第一人者岩田正美が遂に新書を出して、貧困という言葉をメジャー化させるのかと盛り上がって読んでみました・・・!
感想は確かに勉強になるけれどなあというのが正直なところ。
筆者は社会福祉学の専門家らしく労働問題を論じたり、グローバル経済の構造を論じたりすることは皆無で、もっぱら社会保障政策の対象としての「貧困」について書いています。
終始福祉政策をどう充実させたらいいかという話に終始します。なぜか読んでいてイライラしました。理由の一つは若者のワーキング・プアやフリーターの貧困問題にだけ、現在焦点が当たっているのに不満な筆者が、逆に50代やシングルマザー、野宿者の貧困問題だけを取り上げる点です。(研修制度で話題になっている外国人労働者も当然入れるべき。)
数十年まえから貧困問題をこれらの層中心に取り上げつづけてきた筆者のライフワークには敬意を表すけど、はたしてそれでいいのかと感じてしまいます。中高年で初めて潜在的な貧困層の貧困が顕在化するという指摘はたしかにそうだ。しかしこれまで周辺化されてきた貧困者が、ある年代の若者たちに分厚い層として形成され、今後社会的階層として目に見える形ではっきり現れるということがわかっているのに、その相互の連関性の分析に踏み込まないのはやっぱりまずいと思います。周辺化されてきた層と今出現しようとしている層が分断を乗り越え、社会的な力を形成することでしか前進はないはずである。
また熊沢誠が「若者が働くとき−使い捨てられも、燃え尽きもせず」でいみじくも指摘してるように、ニートの問題は不安定で使い捨てのフリーターの問題であり、フリーターの問題は長時間労働と過酷なノルマの正社員の問題であるという認識が筆者にない点である。社会的排除されてきた人々が、主流社会の競争社会に包摂されるのがなんの問題の解決なのか。野宿者運動が今ここにある自分達の社会こそ異常であり変わらなければならないという議論を真剣にやっていて、感銘を受けた身としては不十分さを感じる。
もうひとつ不満なのははすげー啓蒙主義な所。福祉に依存するでなく自立しろというお馴染みの論法に対して、社会を安定させるため貧困者を社会統合するのがあなたがたの利益になると説得しようとしています。
再配分政策の弱点は配分された企業や富裕層の利益があたかも正当なものの見えてしまい、それを啓蒙主義的にお願いして再配分しなければならいことだ。
最近読んだ「新自由主義」のデビット・ハーヴェイなんか富の集中は「略奪的蓄積」のおかげだとはっきり断言してます。そもそもおまえらの利益は不当だと。「知的所有権」「金融」「自然・共有財産(社会保障を含む)の商品化」を例に出しながら私的所有権原理を生存権中心の原理に組みかえろといっています。こっちのほうが聞いていて気持ちいいし、魂が震えます。そうかあの富は不正なのか!
一回富が富裕層に移動したら、その富の力を使って、富を奪っていく再配分を妨害し、富をどこかに隠し、富の権利を正当化しようとする。
再配分は必要だと認めるけど、「再分配より分配させろ!あいつらに富をいかせるな!」がスローガンとしてしっくりくる。福祉国家とか福祉構想単独だと再配分中心の未来構想になり、何もおもしろくないと感じました。
脱線したんで本書の内容に触れます。まず貧困かどうかはは社会的にあってはならないものの水準であり、社会的にしか決まらないといいます。
歴史的な貧困の境界についての論争を紐とき、現代日本では概ね生活保護、最低賃金、基礎年金、所得控除の水準が境界になってきたと。
そして日本では学歴が低い人と結婚状態にない人(シングルマザー、未婚者、離婚者)に貧困との相関性が高いことを様々な統計で明らかにしていきます。これは知らなかったんで勉強になりました。
社会保険(雇用保険、医療保険、年金、介護保険)中心主義で保険を払える層にしか社会保障がカバーされないのに異議を唱え、特に貧困に効果的なのが家賃扶助であるというのは旧来の自分の主張を裏付けられました。さらに雇用保険に入ってない層には失業扶助と無料の職業技能訓練を保障するという提案も納得。
最後に児童虐待等様々な社会問題がカウンセリングの手法だけで対処されて、貧困問題が関係していることを最近言われなくなっているという指摘は「はっと」させられました。
社会保障の側面からの貧困を勉強したいという人にはかなり参考になるとは思います。