国境を解放せよ!世界中の全ての人に市民権を!                         サパタ

0、 始めに

「外国人研修生特区」の記事発見した。(外国人研修生特区、認定先の不正横行http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20080221k0000m070165000c.html
外国人研修生に半強制労働が課せられている実態が次々に明らかになり、国会でもこの制度の見直しが言われている。
さて移民労働者、もっと広げて難民の地位を反戦運動の課題としてどう考えなければいけないのか。国際労働力移動研究の第1人者であるサッセンは「先進国の移民受入政策では、移民過程を個人の行動に還元する傾向が強く、個人が説明責任をはたし政策を実行する場であると見なされている。だが、国際移民は、もっと大きな地政学上の力学や超国家的な経済の力学に組み込まれているとみなければいけない」*1という。
このことを踏まえて、まず日本への移民の送り出し側である中国を事例として検討する。


1.中国の「三農問題


1−1 農民差別の状況


現代中国で決定的に大きい問題が「農業、農村、農民」の三農問題である。「最近の中国の文学作品、ルポタージュでしばしば現在の農民は「封建時代」、「軍閥時代」よりも苦しいという比喩を見ることがある。」*2と言われている。
この原因の一つは1949年の中国建国以来の構造的な農民差別である。*3中国の戸籍は都市戸籍、農業戸籍に分かれていて、労働力の移動が禁じられているだけでなく様々な差別政策がとられてきた。その項目は一四種類に及び、「戸籍/食料配布/副食・燃料/生産機材/教育/就業/医療/保健/労働保護/人材/兵役/婚姻/出産制度」に渡って異なる制度がとられてきた。*4このこととも関連して、都市部に出稼ぎに来る農民は劣悪な労働条件を享受しなければならないが、それについては後で述べたい。
また中央政府財政支出においても都市、農村で大幅な格差をつけられている。国家財政に占める農業向け支出は、12%(1980)だったのが減少させられ、いまでは約7%になっている。*5また医療・保健衛生支出でも大きな格差がつけられ、人口の6割を占める農村部には2割しか支出されていない。そのため医療保険は、農民の9割がカバーされていない。*5義務教育の自己負担率を比べると、農民は都市の9倍になるという。*6中央政府の供出の少なさによる財政難と、地方幹部の着服のため、地方政府は農民に過酷な税金や労働供出を求め、それが近年の農村暴動の一つの要因になっている。*7
また中国はWTOに加盟を期に、2004年に農産品は一律15.7%の関税と、8.5%の政府補助金を除いて全面自由化し、世界中を驚かせた。安価な外国農産物のため、2010年までに960万人の農業余剰労働力が生じ、そのほとんどが穀物生産従事者という深刻な状況になるといわれている。


1−2 出稼ぎ労働者の状況


このような状況の中、農業生産だけでは生計が赤字になり、家族に送金するために、出稼ぎ農民が沿岸部の都市へと流れ込んでいるのである。これらの「出稼ぎ労働者は都市の底辺で過酷な労働に従事している」*8と言われ、賃金不払いや労働災害長時間労働が蔓延している。特に建設業で賃金未払いや労働災害が頻発し、賃金不払いは建設業で全体の7割を占めると言われる。出稼ぎ労働者は内装業を入れれば、6割がこの建設業に従事しているのである。*9北京オリンピックの会場建設が遅れているのも、賃金未払いへの労働者の抗議行動が一つの原因となっている。(北京五輪施設建設の出稼ぎ者搾取http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20080311-OHT1T00138.htm
さらに出稼ぎ労働者は都市で「暫定居住証」を得たとしても「教育・就職・医療・社会保障の保障はない」*10という2重戸籍による差別をうける。つまり中国の大都市部の経済・高層ビル群の繁栄も「農民を無権利状態に置いたまま「無限の低賃金労働力」として酷使」*11することで成り立っているのである。


1−3 農民からの土地の収奪


中国では年間9万件以上の暴動が起こり、そのほとんどが地方政府の不正な土地収用に、からむものである。農村部の暴動では軍隊・戦車が出動して強権的に弾圧するのも珍しくない。土地収用は「地方政府や不動産会社が村民委員会と話をつけて地上げを行っており、ほとんど正規の手続きをえてない」*12と言われる。「土地取引では政府が60〜70%、村が25%〜30%の利益を得て、農民には5%しか配分されない」*12という未曾有の錬金術なのである。十分な保証もなく農民は家から放り出され、土地収容などで「土地を失った農民は3500万人に登るという」*13。この土地収奪は地方政府の重要な収入源になるとともに、農民の生存権を剥奪して高級幹部、不動産屋の汚職と腐敗として活用されるのである。またここで見逃せないのが農村部の土地収容は多くの場合、多国籍企業を誘致するための開発区を建設するために、行われたことだ。このため多国籍企業は共犯関係にあり、安価に土地を確保して工場の操業を行えるという構造になっている。*14


1−4 グローバリゼーションと中国


中国の都市部の経済発展は、農村からの出稼ぎ農民が低賃金で無権利に酷使することで、なりたってきた。多国籍企業はそのような労働力であることを重要な要素として中国に投資を行い、中国政府も中国の資本蓄積のため、そのような状態を積極的に利用してきた。また無権利状態を作り出す上で重要な役割をはたしてきたのが、中国の戸籍制度である。農民は都市にでてくることで市民権を剥奪され、あらゆる権利がなくなってしまうのである。まさに「国内第三世界」からの不法移民の状態なのである。繰り返すが、出稼ぎ労働者の問題が深刻化しても中国政府は積極的にそれを放置してきた。また中国政府はWTOに加盟を行い、義務以上の農産物の関税の引き下げを行った。これは中国が工業製品の輸出国として生きていくことを内外に宣言し、農産物を海外から輸入するという国際分業に組み込まれることを意味する。農村部を切り捨てることで中国はグローバル化を成し遂げられようとしている。このことは中国が世界の工場として多国籍企業の生産拠点として組み込まれていった過程と軸を一つにしている。
農村労働力を無限の労働力プールとして低賃金労働に活用するのも、農民を追い出して安価な土地を用意するのも、WTOに加盟して工業製品の輸出のために農産物を開放するのも、多国籍企業の利益追求と強い共犯関係にある。グローバリゼーションとは世界中を競争させて、このような多国籍企業の飽くなき利潤獲得に世界中を巻き込む運動である。現在、多国籍企業は生産拠点を世界中で移動できるという権利を行使していることで、各国を競争させ、都合のいいような法整備や生産環境を作り出している。中国の搾取労働や離農・土地収奪の問題は、今ここでの多国籍企業との闘いと地続きの問題なのだ。


1−5移民はなぜ発生するのか


ここで国際労働力移動の問題を取り上げたい。俗説的には「単に二つの地域間の賃金格差」(所得格差)によって説明」*15される。しかし多国籍企業の直接投資を原因として、マルクスが「本源的蓄積」と名付けた、農民の土地からの暴力的な引き剥がしが行われていることが、余剰労働力を生み出す一つの要因となっている。また現在グロ-ゼーションの中で行われている国際労働力移動の多くは、旧植民地→旧宗主国という特定の流れを作り出している。このことから「外国資本の工場の存在とそこでの労働経験は、投資国(親企業の所在地)との実体的な、あるいは文化的な紐帯を形成し、それが対外移民ないし出稼ぎの流れをある特定国に向かわせる触媒となる」*16という指摘ができる。つまり多国籍企業の直接投資は周辺部の労働力を活用すると同時に、多国籍企業の本国へ労働力を吸引する2重の意味をもつのである。


2,日本における外国人


2−0日本の外国人労働力の導入


供給国側の事情に焦点を当てたわけだが、日本が移民労働力を必要としていった過程を描いていきたい。
日本の高度経済成長期に、日本列島は未曾有の労働力移動を経験していた。朝鮮戦争による米軍物資の需要を契機とした日本の工業化によって、大量の労働力需要が生じた。1955年以降、農業就業者人口は72〜73まで毎年20万人前後と減少した。非農林業従事者数は毎年130万人と著しく増加し、農家の次男、三男だけでなく跡取りの長男までが離農していったのである。*17これらの労働力は「金の卵」として大都市の工業地帯に吸収されていった。
この時期には麦や大豆などの土地利用型の穀物輸入自由化され、深刻な農工間格差から労働力が移動していったのである。
しかし70年代に入ると若年層の流出による農家の労働力供給は限界に達していた。そのため「農村地域に残っていた農家労働力を、工業の側から「ひきはがし」にかかる必要性が生じたのである。」*18。そして70年代から80年代にかけて、農村立地型企業がまだ使われていない低賃金労働力を求めて、積極的に農村に進出した。このことから農家の兼業も促進されていった。また都市部においても女性のパート労働力が積極的に製造業で利用されていった。しかしこれらの国内労働力供給では不十分な状況が生み出されたのがバブル期以降である。政府、経済界も外国人労働力の活用に目をつけていった。90年改正入管法により日系2世、3世が定住外国人として登録できるようになった。またこのころから外国人研修生制度が整備され、労働力として活用されていった。バブル崩壊以降も外国人労働者は増加していっている。


2−1現在の外国人労働力の活用


現在の外国人労働力は製造業の下請けにとって必要不可欠の存在だ。日系外国人だけでなく、留学生、外国人研修生やオーバースティの外国人労働力も活用されている。多国籍企業にとって全ての部品生産を内部化することは、取引費用を削減する効果はあるが、各下請けを劣悪な条件で競争させる方が、それを上回る経費削減効果がある。そのため設備投資の量や技術集積が大きいかどうかで、直接生産、子会社、系列の下請け、孫請けを多様に組み合わせた生産方式をとってきた。
これにより日本の多重下請け構造が維持し、下請けに無理難題の過酷な契約条件を求め、大幅な利益を上げてきた。最末端の下請け現場では、労働基準法が守られないのが状態化している。ビザを取り上げ、抵抗すると入管に突き出すぞと脅し、低賃金・長時間労働を強制している。
まさに外国人であるという市民権のない存在のため、収奪的な労働が課せられている。日本の多国籍企業は、下請けを通した、これらの底辺労働がなければ成り立たない。このことは繊維等の構造不況業種や大規模農業法人などでも広範に言える。(日本の農業を支えているのは劣悪環境に耐え忍ぶ外国人研修生http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/china/mo/080317_kensyusei/
また安価な労働力と同時に、資本や政府にとって社会保障を適用しないで、労働力の再生産に責任を持たなくていい存在都合のいい存在である。
彼・彼女らは景気の安全弁として必要がなければ真っ先に失業する。また入管はその外国人労働力の必要量を制御するための調整装置であり、強制労働から逃げ出さないようにするための脅迫装置にもなっている。


2−2人身売買


日本は世界でも有数の人身売買大国で15万人以上の外国人女性がセックスワーク
に従事させられている。これらの女性は「自分たちが売買されているということを知っている女性もなかにはいるが、多くの女性にとって、採用の条件や虐待や拘束の程度は、受け入れ国についてようやく明らかになる。監禁条件は極端に悪く、ほぼ奴隷状態であるといってよい。」。*19また自分達の状況を行政機関に名乗りでれば「虐待の犠牲者としてではなく、法を犯した犯罪者として取り扱われことになる。国境での入国管理を強化することによって、不法移民や人身売買に対処しようとする試みは、女性が国境を越えるために人身売買を活用する可能性を高めるだけである」*19。また入国することで、女性には数百万の借金が日本のやくざにあることが判明するのである。強制売春では巨額のピンハネが行われ、借金はほとんど減らず債務奴隷として働かせつづられる。


2−3難民認定


日本は1982年に「難民の地位に関する議定書」に加入していこう3000人以上が難民申請を行っている。しかし約10%の300人台の人しか、認められてこなかった。認定が却下されれば、滅多にない法務大臣の特別在留許可が降りる以外は強制送還される。、自国に強制送還されれば、反政府運動に参加した等の理由で、政治的迫害を受ける可能性が極めて高いと立証しなければならず、非常に厳しい条件である。*20また政府の認定は恣意的で、中国やトルコ等kからの難民は政治的都合から認められにくい。難民認定された後も常に在留許可を取って、監視され続けなければいけない。また特別な資格が必要なため難民の多くが医療保険の加入資格がない。そのため高額の治療費を自己負担しないといけない。そもそも「経済的難民」である移民と「政治的難民」と言われる難民を分ける境界線などないのである。すべての在留外国人に市民権が必要である。






*1サスキア・サッセン「グローバル空間の政治経済学」(岩波書店、2004)
*2辻康吾「三農問題に直面する中国」雑誌 世界 9月号(岩波書店、2002)p271
*3古今東西、食料生産をしている筈の農村でしか大規模な飢饉が発生したことがないという歴史的事実から、都市-農村の権力問題を考えた本として藤田弘夫「都市の論理」(中公新書、1993)がある。その中では地方の反乱が国家権力を崩壊させたことはほとんどないという事実が指摘される。中  国全土を動乱に巻き込んだ黄巣の反乱や太平天国の乱でさえ王朝は倒れなかったのである。一方で都市の民衆の反乱では国家権力があっけなく倒れ   た。そのことからなんとしても国家権力は都市に安価な食料を確保しなければならないし、農村は収奪の対象となっても権力の維持に致命的なものに  はならない。
新生中国建国以来、農村からの収奪によって工業化を行ってきたことを描いた書としては小島 麗逸 「現代中国の経済」(岩波書店、1997)があ  る。
*4辻康吾「三農問題に直面する中国」雑誌 世界 9月号(岩波書店、2002)p271
*5興梠 一郎「中国激流」(岩波書店、2005)p35
*6辻康吾「三農問題に直面する中国」雑誌 世界 9月号(岩波書店、2002)p271
*7地方幹部がこれを告発した事例としては郷委員会書記長であった李 昌平の告発本「中国農村崩壊」(NHK出版、2004)がある。
序文で「私は余りにも多くの悲しみを味わった。どれだけの農民の子供達が大学に合格したものの貧しさから入学できず、彼らが泣き、両親が跪いて私 に助けをもとめたことか。どれだけの農民の子供たちが貧しさから小学校、中学校、高等学校に入れず、子供達が泣き、両親が跪いて私に同情を求めた ことか。どれだけの子供たちが貧しくて病気の親を入院させられないと跪き、私に慈悲を求めたことか。どれだけの貧しい朴訥な農民が免罪を訴える場 所がないと、跪き私に正義を行うよう求めたことか。その数は覚え切れないほどである。こうした出来事があまりに多すぎる。(中略)農村での17年 を振り返り、私が農民のためにした良いことは余りにも少なく、悪いことは少なくない。農民に対して私は罪を負っている。農民をこれ以上跪かせない ことを願っている。」
*8興梠 一郎「中国激流」(岩波書店、2005)p26
*9興梠 一郎「中国激流」(岩波書店、2005)p28
*10興梠 一郎「中国激流」(岩波書店、2005)p38
*11興梠 一郎「中国激流」(岩波書店、2005)p34
*12興梠 一郎「中国激流」(岩波書店、2005)p63
*13興梠 一郎「中国激流」(岩波書店、2005)p50

14中国の土地収用は必ずしも農村部に限られた話ではない。北京オリンピックの例を参照(125万人が強制立ち退き 北京五輪で人権団体指摘   http://www.47news.jp/CN/200706/CN2007060501000463.html)このような強制立ち退きはロンドンオリンピック南アフリカサッカーW杯でも指摘されている問題でもある。ビック国際スポーツイベントとスラムクリアランスの関係に関しては別にまた論じたい。
*15竹野内真樹「労働力の国際移動」p194  森田桐朗 編著「世界経済論」(ミネルヴァ書房、1995年)所収
*16竹野内真樹「労働力の国際移動」p195  森田桐朗 編著「世界経済論」(ミネルヴァ書房、1995年)所収
*17友田茂雄「農村労働力基盤の枯渇と就業形態の多様化」p19矢口芳生編「経済構造転換期の共生農業システム」(農林協会、2006)
*18友田茂雄「農村労働力基盤の枯渇と就業形態の多様化」p27矢口芳生編「経済構造転換期の共生農業システム」(農林協会、2006)
*19サスキア・サッセン「グローバル空間の政治経済学」(岩波書店、2004)p20
*20アムネスティ・インターナショナル「日本の難民問題一問一答」(解放出版社、2004)