『テロマネーを封鎖せよ 米国の国際金融戦略の内幕を描く(原題:Global Financial Warriors)』

テロマネーを封鎖せよ

テロマネーを封鎖せよ

★反G8活動家、とくに関西地方で活動する人、必読?

「このテロリズムとの戦争は様々な戦線で戦うことになるだろう…。その戦線は過去の戦争とは異なって見えるだろう…。この戦いで勝利を収めるためには、アメリカはあらゆる分野で影響力を行使しなければならない。その一つが金融である。」

 2001年9月24日の、ブッシュの声明を冒頭におく本書は、2001年から2005年のあいだ、米国財務省次官・国際担当であった著者自身により描かれたドキュメントである。
 この期間、そして立場が本書の性質をまさに規定しているのだが、その内容を紹介し、ぜひ共有を図りたい。本書で著者は2001年の9.11以降におけるアメリカの金融政策の内幕を描いているのだが、それを通じて、私たちはいかに金融政策が、対テロ戦争と密接に関連しているか、またそれらが単にアメリカ一国の政策ではなく、日本も主要なアクターとするG7の枠において遂行されてきたかということを具体的に知ることができる。
 金融と戦争の関係は理論的に了解されていたとしても、重要なのは実証である。そうした観点から見れば、本書の重要さは大きいと言える。本書では、「テロリスト」規程された団体への資金規制、アフガニスタンイラクへの経済復興政策、そして国際的な金融危機への対応としてのIMF世界銀行改革を中心的な課題とし、それら全てに関して、国際的な財務関係者の駆け引きが論じられている。また、われわれ日本社会に生きるものとして興味深いのは最終章「米国の為替相場外交―日本と中国」と題された部分であろう。それら全てをカバーする力量はまったくないため、筆者の主要な関心事である対テロ戦争を軸として紹介していきたい。
 2001年以降の過程で、その最初のインパクトとなるのが、9.11直後におこなわれたのがアメリカの指導のもとに作成された「テロ資金供与に対して戦うためのG7行動計画」とされる、G7加盟国財務省の共同行動綱領である。その総論では「われわれG7の財務省は、テロリストとその関係者の資金を封鎖するため、包括的な行動計画の作成を行ってきた。テロ資金供与に対する戦いにおいて、G7は成果を得るために協力していくことを誓う。」とされ、以下、具体的な方針が列挙されている。
 この改革は著者自身により「国際金融の分野では、ブレトンウッズ協定に匹敵する国際協力の最も偉大な功績」(p.56)として総括されている。我々はこの「偉大さ」こそ共有しないが、このことが時代を画期する性質を持つ点は共有せねばならないだろう。事実、この対テロ戦争の原理のもとに、ブレトンウッズの遺産であるIMF・WBは再編強化されていくのである。
 かかる米国を中心とした金融部門での大規模な変化は対テロ戦争遂行にあたっていかなる動きをしたのか。それは「前線国家」に端的にあらわれる。「前線国家」とは、パキスタンおよびウズベキスタンキルギスタンなどの中央アジア諸国計13カ国にのぼる、対テロ戦争にあたって強化されるべき拠点国家である。それらの国に対しては基地提供、派兵などの軍事行動への支援が期待され、したがって「援助は非常に急を要するもの」となったのである。
 ここに私たちは「人道援助」が実に非・人道的にプログラムされていることを見ることができるのであるが−「グローバルなテロとの戦いがなければ、中央アジアまで足を伸ばすことはなかっただろう」(p.77)―、こうした「対テロ戦争」のための援助自身が現地政権側の圧制と相まって、民衆に多大なる苦しみを与えることにかんする言及はほとんどない。2005年以降のパキスタンにおける混乱はまさに前線とされた国家ゆえの苦しみではなかっただろうか。
 また、ほんとうの戦地、アフガニスタンに関する第二章では、いかに日本の財務省、外務省、アジア開発銀行(ADB)が積極的にアメリカに協力したのかを理解することができる。このときの日本財務省側の代表が、先日日銀総裁候補としても名前が挙がった現ADB総裁である黒田東彦である(当時財務省財務官)。
 細かい点については直接本書をあたってもらう他ないが、第一に、対テロ戦争において国際金融部門が非常に重要であり、それはアメリ財務省ヘゲモニーのもと、主要先進国(G8)の共同行動・謀議により可能になっていること、第二に、その覇権の各国への浸透過程でIMF・WBを利用した「人道」援助が重要な「手段」となっていること(「前線国家」に対してはより直接的な関与)を確認していきたい。 
 かかる対テロ戦争への関与が、当該国家の内部においていかに政治的抑圧を深めるものであるか、パキスタンのみならず日本における朝鮮総連への弾圧や中国における少数民族弾圧の問題などと関連させて考察する必要があるだろう。
 G8サミットでは、大阪では財務省会議、京都では外務省会議が開催される。本書に描かれたような権力者達の共同謀議がいかに大きな苦しみを世界中に、そしてこの日本社会に生みだしてきたかを考えるとき、それぞれの地域に暮らす人びとがその生活の拠点から抗議をおこなう意義もまた大きいと言えるはずだ。洞爺湖直接行動に先立ち、こうした関西での問題共有と異議申し立ても重要となるだろう。

 成瀬


補足:アフリカPKOへのエジプトからの派遣要請においても、開発と軍事行動が歩調をあわせていることがわかる。
アフリカPKO「日本は後方支援を」 エジプト副外相 asahi.com 2008年04月11日00時23分
http://www.asahi.com/politics/update/0411/TKY200804100355.html?ref=rss