名古屋高裁判決支持!
昨日、名古屋高裁で自衛隊イラク派兵が明確に違憲であると断じた判決が下された。すでに多くのメディアでも取り上げられているとおり、非常に画期的な判決であり、私はこれを支持したい。
本エントリでは、以下の二つの点からコメントして、最後に感想を記したい。
1)大手新聞の反応 2)バグダッド空港周辺 3)感想
1)大手新聞の反応
社説や「識者コメント」が読みたかったので、いちおう現物を買い集めておいた。以下の引用は全て4月18日付け朝刊からによるものである。
一面見出し
日経以外の読売、毎日、朝日、産経、京都全てが一面トップで関連記事も多かった。「空自イラク派遣 初の違憲判断」(京都)「多国籍軍空輸は違憲」(毎日)「イラク空自活動違憲」(朝日)「「空自イラク活動 違憲」」(産経)などで、産経が「」の中に入れているのがいじらしいが、読売の「イラク空自 一部違憲」という見出しが浅ましさNO.1である。
社説
社説のタイトルは「平和協力を否定するのか」(産経)「違憲とされた自衛隊派遣」(朝日)「あいまいな説明は許されない」(毎日)とあり、自分としては京都新聞の「違憲判断に向き合え」というのが主張の方向性を明確にしており最も好感が持てた。毎日、産経、京都は「説」である。朝日のタイトルは「説」とはいえない。読売は「兵輸送は武力行使ではない」というものであり、産経以上の非常識ぶりを発揮した噴飯もののタイトルであった。
読売は、1,武装勢力の掃討活動は武力行使ではない。2.仮に掃討活動が武力行使だとしても空自による多国籍軍の空輸は武力公使ではない。3.なぜならばバグダッド空港は非戦闘地域であり「空自の輸送機から降り立った兵士がすぐに戦闘活動を開始するなら、一体化する恐れもあるだろうが、実態は全く違う」と主張している。特に3点目の、降り立った兵士が即戦闘開始という最前線でもなければありえないような状態を想定しなおかつ「恐れもあるだろう」とは恐れ入る。エントリの後半部分ではこの点についていくつかのソースから検討したい。
朝日はタイトルこそ「説」未満のものだったが、「与野党は撤収に向けてすぐにも議論を始めるべきだ」と要求している点は評価して良い。最後に最高裁への提言となっているが、やはり社として「判決」評価だけではなく、イラク派兵評価へ踏み込んでほしかった。
京都新聞の社説は、本判決を高く評価しつつ、かつ限界としてイラク特措法事態の是非、自衛隊派兵の是非には踏み込んでいない点を指摘しており、的確である。この間、貧困問題などに関しても京都新聞の社説は信頼に値する説を展開していると私は思う。
2)バグダッド空港周辺
今回の判決の受け止め方として政府・与党はおおむねスルーを決め込んでいるようである。その際、バグダッド空港は「非戦闘地域」であること、判決における違憲判断は「傍論」であるというコメントが目立つ。後者に関しては今回は踏み込まないが、バグダッド空港のことについて少しだけ書きたい。
小泉の「自衛隊が活動しているところが非戦闘地域だ(2004年11月党首討論で)」は本当に許しがたい意味不明さであるが、2006年6月、額賀防衛庁長官(当時)が「バグダッド地域全体が戦闘地域か非戦闘地域か、我々は区別しているわけではない。飛行場は非戦闘地域である。」と衆院イラク復興支援特別委で述べているのは注目に値する。
グーグルで「バグダッド国際空港」と検索するとwikipedia「バグダード国際空港」がみつかるが、英語版のほうがはるかに充実している。まず、日本語版では「官民共用」空港と書いているが、英語版では明確に「Military/Public」としており、「軍民共用」とされるべきではないか。
また、この空港が一貫して軍事的拠点として利用されてきたこと、民間部分に関してもCuster Battlesという民間戦争会社に委託されてきたことなどが割愛されている。
英語版から読み取れる重要なことはこのバグダッド国際空港が内外に巨大な米軍基地を配備した場所であるということである。少なくとも、Camp Cropper, Camp Dublin, Camp Liberty, Sather Air Base, Camp Slayer, Camp Striker, Camp Victory, Logistics Base Seitzという8施設がバグダッド国際空港周辺および内部に配備されているのである。これらの一部をあわせてThe Victory Base Complexと呼ぶようである。これらは兵站施設から収容所まで幅広い内容をもった施設郡である。
全てについてわかるわけではないが、とくに目を引くのはアブ・グレイブ閉鎖以後、その機能を引き継いだとされるCamp Cropperであろうか。
(http://en.wikipedia.org/wiki/Camp_Cropper)2007年3月、「軍政部(Military Officeってどう訳すのか)」がこの施設の拡張を主張した段階で3,300名の「容疑者」が収容されていたとされ、施設内での虐待が多くの命を奪い、同時に「過激派」のリクルート場所になっているなどとの批判があるという。
2008年2月段階ででたペーパー(http://www.fcnl.org/iraq/bases_text.htm)でイラク国内の米軍施設が55とされているから、その大きな部分がバグダッド空港周辺にあることがわかる。
また、今回の判決の焦点となった人員・物資の移送という点との関連では、Sather Air Baseはバグダッド空港内に位置するのだが、同基地の主要な機能は軍事物資・人員の移送である。(イラク戦争開始以降、最初の犠牲者となった米空軍兵の名前に由来する名をもつこの基地には、米空軍447th Air Expeditionary Groupから約1200名を配置している)
(http://en.wikipedia.org/wiki/Sather_Air_Base)
バグダッド空港内部において一つの軍事的経路が確立しているということはほぼ間違いないと思われる。
参考:イラク多国籍軍の公式ウェブサイトでは2007年の共同作戦の報告を配信しており、そのパンフレットは無料で閲覧できる。
http://www.mnf-iraq.com/(ウェブサイト右側のCoalition Operation 2007 year in Review)このパンフレット28,29ページが日本の活動紹介にあてられている。
3)感想
非常に重要な判決であった。この問題に関しては抑圧というよりも、白を黒と言いくるめる欺瞞という側面が強く感じられ全く気持ち悪い思いをしていたため、爽快である。小泉発言にあったような無節操振りは多くの人の真剣に反対する気持ちを根底から折ってしまうような効果をもっていただろうからである。事実に即した議論でなくては、批判もなにも成立しえないからである。その端緒につけるものであったといいたい。今後の課題は、本判決をいかにして現実の社会のあり方として獲得してゆくか、ということであろう。同日京都新聞には町村が聖火防衛隊を受け入れないとコメントした記事がある。受け入れないのは当然として、その根拠として「わが国は極めてきちんとした法治国家」だからとのこと。高裁判決を無視する政権など「法治国家」にはふさわしくない。これは左翼かどうかという思想うんぬん以前の問題である。
イラク特措法を廃止しよう!派兵恒久法の成立を許すな!
みなさん、これからも頑張っていきましょう。
成瀬
(写真は百万遍交差点に設置した反戦生活の看板)
参考:自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の会 ウェブサイト
http://www.haheisashidome.jp/index.htm